指導、稽古 1
氣づき
(根っこ)

「にんげんだもの」 相田みつを 文化社出版


わたしは長い歳月

うえに伸びることばかりを考えてきて
土の中深く根を張ることを忘れていたようです
ヒョロヒョロと 幹ばかり高く伸びて
雑然と枝葉がひろがるようになった時
幹や枝葉の重みに耐えられない根の弱さに
わたしは初めて気がついたのです
気がついたときには手おくれでした
手おくれとわかったとき
わたしは思い切って 
枝葉をおとすことにしました
土の中のわたしの弱い根と
細い幹に支えられるだけのわずかな枝を残して
あとはばっさりと切り捨てました
それは
根の弱い 幹の細い 力のない者が
なんとか自分を守りながら生きてゆくための
消極的な、しかもそれなりに
勇気のいる生活の智慧でした
とはいうものの枝葉をおとす時
わたしはやっぱりさびしい気がしました
もったいないなあと思いました
しかし おかげさまで いまでは
眼に見えない土の中で
弱かった根が新たな活動を始めたようです
枝葉を切り捨てた分だけ
いや、それ以上かも・・

だれにもわからない根だけが知る
静かな充実感を持ちながら・・

つまづいたり ころんだり したおかげで
物事を深く考えるようになりました

あやまちや失敗を繰り返したおかげで
少しずつだが人のやることを
暖かい眼で見られるようになりました
何回も追いつめられたおかげで
人間としての自分の弱さとだらしなさを
いやというほど知りました
だまされたり 裏切られたり したおかげで
馬鹿正直で親切な人間の暖かさも知りました
そして・・
身近な人の死に逢うたびに
人のいのちのはかなさと
いま ここに生きていることの尊さを
骨身にしみて味わいました